Research

時間栄養学

概日時計とは約24時間のリズム性をもった生理機構であり、睡眠・覚醒、ホルモン分泌、体温変動など、様々な機能を制御することで、恒常性維持に重要な役割を担っています。概日時計はあらゆる細胞に発現する時計遺伝子群による、24時間の発現振動が主なメカニズムであり、その振動は様々な生理機能に重要な転写因子や受容体などの発現にも伝達されています。

朝の光は体内時計をリセットする効果がある事は有名ですが、同時に朝食もまた体内時計に有効であることが近年証明されてきました。そこで私は、食と体内時計の関連を「時間栄養学」という新しい学問として、研究を進めてきました(Tahara & Shibata, Neuroscience, 2013, Review)。特にマウスを用いた実験で、食後のインスリン分泌が末梢組織の概日時計リセットに重要である事(Tahara et al., JBR, 2011)、長い絶食後の食餌が概日時計を強くリセットする事(Kuroda & Tahara et al., Sci Rep., 2012)などを報告しています。また、DHA、EPAなどの長鎖脂肪酸を含む魚油が、GPR120を介したインスリン分泌促進作用により、食餌性体内時計リセットの効果を強めることも分かってきました(Ikeda et al., PLoS ONE, 2015)。また、カフェインは概日時計の周期を延長すると共に、概日時計リセット作用も有り、特に夕・夜のカフェインは概日時計を遅らせてしまう事が分かりました(Narishige et al., British J Pharm, 2014)。

・In vivo whole body imagingによる概日時計の可視化

時計遺伝子PER2とホタルLUCIFERASEが複合タンパクを作るPER2::LUCマウス、またはBmal1-ELucマウスと、インビボ・イメージング装置(IVIS, Caliper社)を用いて、インビボ発光リズム測定法を世界で初めて確立しました(Tahara et al., Current Biology, 2012)。これにより、一個体の生きたマウスの末梢組織(腎臓、肝臓、顎下腺)の概日時計を、安定に、少ない個体差で、簡便に測定する事が可能となりました。

・ストレスと概日時計

概日時計の乱れとして身近な原因は、時差ボケや夜間交代勤務ですが、それらが体に及ぼす影響は未だ不明な点が多いです。最近、慢性的な光環境の変化(時差ボケ)がうつ病様行動を引き起こす事がマウスで報告されました(LeGates et al., Nature, 2012)。また、躁うつ病患者の概日時計の乱れ、時計遺伝子のノックアウトマウスでの躁病様行動などから、不安や情動と概日時計の関連も報告がなされています。
私は、拘束ストレス負荷がマウスの末梢組織(肝臓、腎臓、副腎皮質など)の概日時計を強く急激に変化させる事を見出しました(Tahara et al., Scientific Reports, 2015)。ストレス自体が急性に時計変調をもたらすという結果は新規かつ重要な発見です。面白い事にこの現象は、社会的恐怖ストレス、高所不安ストレスなどでも見られ、精神的・物理的なストレスが作用すると考えられました。さらにこの概日時計を動かす作用は、視床下部ー下垂体ー副腎軸、及び視床下部ー交感神経ー副腎髄質軸を介している事が分かりました。

図2図1